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東京地方裁判所 平成5年(ワ)18618号 判決

原告

斎藤修

右訴訟代理人弁護士

佐藤容子

被告

株式会社エグゼ

右代表者代表取締役

花城三夫

主文

被告は原告に対し、一六四万六九二五円及びうち一五四万六九二五円に対する平成五年六月一〇日から、うち一〇万円に対する同年七月一一日から各支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員をそれぞれ支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、一七七万一九六八円及びこれに対する平成五年六月一〇日から支払済みまで年一四・六パーセント(賃金の支払確保等に関する法律六条一項)の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告と雇用契約を締結したと主張する原告が被告に対し、約定の未払賃金の支払を求めたのに対し、被告は、原告と締結したのは請負契約であって、支払うべき請負代金は存在しない旨主張して争っている事案である。

一  争いのない事実

1  被告の求人募集と原告の応募

被告は、平成四年一〇月二二日発行の求人広告誌「ビーイング」第一八巻四〇号に被告の事業内容を紹介するとともに、左記内容の求人広告(以下「本件求人広告」という。)をなし、原告は、そのころ、これに応募した。

a 職種 SE、プログラマー

b 仕事内容 大型汎用コンピューター及びパーソナルコンピューターを使っての通信システム(医療情報)の設計及びプログラム作成

c 資格 三五歳位までの方 C言語経験三年以上

d 勤務時間 九時から一七時三〇分まで

e 給与 月額二六万四〇〇〇円以上 経験、能力により優遇

f 待遇 昇給年一回、賞与年二回、各種社会保険完備、交通費全額支給、諸手当有

g 休日休暇 完全週休二日制(土・日)、祝日、年末年始、夏期、有給、慶弔

2  原告の応募と面接

原告は、本件求人広告に応募し、同年一一月五日、被告において面接を受けた。

3  被告代表者花城三夫(以下「花城社長」という。)の出社要請と打合せ

花城社長は原告に対し、同年一一月二五日、電話で同年一二月一日から始まる仕事の開始が遅れることとなったが、打合せをするから一二月一日に来社して欲しい旨告げたので、原告は、同日、被告に出社して花城社長と面談して打合せをした。

4  日本データコム株式会社(以下「日本データコム」という。)からの仕事内容の説明と指示

原告は、同月一四日、花城社長とともに日本データコムに赴き、同社から仕事内容の説明を受け、同月二一日から同社の指示のもとに東京都品川区(住所以下略)所在のNTT関東逓信病院において、コンピューターの院内システム作業をすることとなった。

5  NTT関東逓信病院における労務作業

原告は、平成五年一月五日から同年五月一四日まで、NTT関東逓信病院において、日本データコムの指示のもとで同病院の院内システム設計の作業に従事した。

原告は、右作業をするに際しては日本データコム所定の勤務票に出勤時刻、退出時刻を、同社所定の週間作業報告書には作業経過をそれぞれ記載し、同社に提出した。

なお、原告は、被告から「株式会社エグゼ」、「システム開発部主任斎藤修」の名刺を交付されていた。

二  争点

原告と被告との間で原告の主張する雇用契約が締結されたか否か、仮に締結されたとして原告主張の賃金債権が存するか否かにある。

(原告の主張)

原告は、平成四年一二月一日、被告との間で、身分は派遣社員、給与は一か月四二万円を当月の月末から四〇日後に支払う、仕事内容はNTT関東逓信病院での仕事で、これが終了すれば次の派遣先を原告に紹介する、との内容の雇用契約を締結した。

そして、原告は、平成五年一月五日から同年五月一五日までの間、右病院の院内システムの設計の作業に従事した。

そこで、右の間の賃金額は、左記のとおり合計二二九万一九六八円(但し、うち五二万円は支給済み)となる。

〈1〉 平成四年一二月分 二一万円

〈2〉 平成五年一月分 四二万円

〈3〉 同年二月分 四九万九五四五円(但し、うち七万九五四五円は、時間外勤務時間二五時間相当分の賃金、この算出方法は、一か月の所定労働時間を一六五時間とし、一か月の給与四二万円を一六五時間で除した三一八一円を一時間当りの賃金とし、これに時間外勤務時間を乗じる。以下、同じ)

〈4〉 同年三月分 五三万七七二七円(但し、うち一一万七七二七円は時間外勤務時間三七時間相当分の賃金)

〈5〉 同年四月分 四六万一三六三円(但し、うち四万一三六三円は時間外勤務時間一三時間相当分の賃金)

〈6〉 同年五月分 一六万三三三三円(但し、同月の就労予定日数一八日を四二万円で除した二万三三三三円を一日当りの賃金とし、これに同月の就労日数七日を乗じた金額)

(被告の主張)

被告は、原告との間で、原告主張の雇用契約を締結したことはない。

被告が原告との間で締結した契約は、業務委託に関する外注基本契約、すなわち、被告は、NTT関東逓信病院から日本データコムが請負った検査データ管理システム及び製造業務を一部請負い、この一部を原告に請負わせたのである。

ところが、原告は、右請負業務を完成させずに途中で放棄した。

第三争点に対する判断

一  雇用契約の成否について

前記争いのない事実に証拠(〈証拠略〉)を総合すると、次の事実を認めることができる。

原告は、本件求人広告の職種のうちでSE(システムエンジニア)として応募し、平成四年一一月五日、花城社長らの面接を受けた。この際、花城社長らは原告に対し、仕事内容はNTT関東逓信病院内のコンピューターによる検査システムの開発であること、詳細については後日連絡すること、仕事の開始は同年一二月一日からであるが、連絡のあるまで自宅で待機することを述べた。これに応じた原告は、同日から自宅待機して被告からの連絡を待っていたところ、同年一一月二五日、花城社長から仕事の開始が遅れていること、同年一二月一日午前一一時に打合せをするので来社することの電話連絡を受けた。そこで、原告は、同日、被告に赴いたところ、花城社長から仕事の開始が確定していないので、何時でも仕事に就けるように自宅で待機していること、但し、同月分の給与は(ママ)として半額を保証することを述べられるとともに、給与は、契約社員で一か月四二万円(但し、支給日は四〇日後)、正社員で一か月三四万円であり、契約社員は仕事が途中で途切れて稼働しない間の給与は保証されていない(但し、仕事が途切れないようにする。)が、正社員はその保証があること、勤務場所はNTT関東逓信病院で、勤務時間は午前八時三〇分から午後五時までであり、休日は完全週休二日制であることの説明を受け、これに対し原告は、給与が高く仕事が途切れることがないようにするということから契約社員となることの希望を述べた。

原告は、右の自宅待機中の同月一四日、被告から出社するように連絡を受けたので、同日、出社したところ、花城社長から日本データコムに案内され、同社の社員から仕事の具体的な説明を受けた。

このようにして原告は、平成五年一月五日からNTT関東逓信病院においてコンピューターの院内システムの作業に従事するようになったのであるが、右の作業をするについては、日本データコムの担当者から出退勤時間、超過勤務時間等を記入することとなっている「勤務票」を渡され、毎日原告が記入するようい(ママ)に指示され、原告は、この指示どおり右の記入をなし、そして、同年三月末まで記入した勤務票を日本データコムに提出したが、同年四月からは被告に提出するように指示され被告に提出した。

以上の事実が認められるところ、花城社長は、原告と被告との間で締結された契約はNTT関東逓信病院検査データ管理システム設計及び製造についての請負契約である旨供述し、これを証する書証として(証拠略)を提出する。

なるほど、(証拠略)には花城社長の供述に沿った内容が記載されている。

しかし、原告の供述によると、原告は、被告から約定どおりの給与が支給されるものと期待していたところ、この支給が全くされなかったので、同年三月一〇日ころ、花城社長に右支給を督促したところ、同社長から資金繰りの悪化を理由に延期の申し出でを受け、同月一八日、被告から(証拠略)の送付を受け、この送付書面の表題が「受託業務に関する外注基本契約」と記載されていたので不審に思い、そのころ、被告に説明を求めたが納得がいかなかったのでそのまま放置していたところ、被告から右の契約書が返送されないと給与の振込みができない旨述べられたので、生活するのが困難な状況となっていたこともあって、(証拠略)に署名捺印して返送したこと、この返送をした後の同年四月六日、原告は被告から二一万円の振込みを受けたことを認めることができる。

右認定事実によると、(証拠略)は、原告と被告との間の契約関係につき真実を記載した書面ということはできず、花城社長の右供述も前掲証拠と対比してにわかには信用することができない。

そこで、右認定事実によると、原告と被告との間で締結された契約は原告が主張するとおりの雇用契約であるということができる。

二  賃金債権について

右認定したところによると、原告は被告との間で、賃金は一か月四二万円(但し、平成四年一二月分についてはこの半額の二一万円)とする旨の雇用契約を締結したというのであり、そして、証拠(原告)によると、原告は、平成五年一月五日から同年四月三〇日まで、土・日曜日及び祭日を除きNTT関東逓信病院の(ママ)おいてコンピューターの院内システムの作業に従事したこと、しかし、原告は、被告から約定どおりの給与の支給がなされなかったので、同年五月一〇日、被告に退職の意思表示をし、同年五月一〇日から同月一四日まで被告の正社員である谷口に仕事の引継ぎをしたうえで退職をしたこと、そして、右の間の時間外勤務時間は、同年二月は二五時間、同年三月は三七時間、同年四月は一三時間に及んだことを認めることができる。

そうすると、被告は原告に対し、平成四年一二月分の賃金として二一万円、平成五年一月から同年四月までの賃金として一か月四二万円の外に、時間外勤務及び同年五月分として五日間の賃金債権を有する。

そこで、時間外勤務についての賃金であるが、前記認定事実に証拠(〈証拠略〉)を総合すると、原告の勤務日数は平成五年二月は一九日、同年三月は二三日、同年四月は二一日であること、右の間の所定勤務時間は午前八時三〇分から午後五時までの八時間三〇分であることを認めることができる。

そうすると、右の間の一か月当りの平均勤務日数は二一日であるから、一か月当りの平均労働時間は一七八時間(但し、一時間未満切捨て)となる。そこで、一か月の給与四二万円を一七八時間で除した二三五九円(但し、円未満切捨て)を一時間当りの賃金とし、これに時間外勤務時間を乗じると、二月は五万八九七五円、三月は八万七二八三円、三月は三万〇六六七円、以上合計一七万九六二五円となる。

次に、平成五年五月分の賃金であるが、右のとおり二月から四月までの間の一か月平均労働日数は二一日であるから、一か月の給与四二万円を二一日で除した二万円を一日当りの賃金とし、これに就労日数五日を乗じた一〇万円(但し、支給日は同年七月一〇日)が同月分の賃金となる。

したがって、原告の総賃金額は二一六万六九二五円となるところ、うち五二万円が支給済みであるから、残賃金額は一六四万六九二五円となる。よって、本訴請求は、主文の限度で理由がある。

(裁判官 林豊)

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